「…………え?」
気付けば正面にいた優輝の姿がなく、離れた場所にいた。それだけでなく、何故か自分の体が浮いている感覚がある。
どうしてか分からずにいると、ゆっくりと体が下ろされた。そうしてゼクスにお姫様抱っこをされていたことが分かり、驚きと恥ずかしさが込み上げてきた。
「もう大丈夫。頑張ったね」
何処からともなく現れたゼクスは、にこっと微笑み、美礼の頭をぽんと叩く。同時に恐怖心は安心と変わり、思わず泣いてしまった。
一方凌と優輝も何が起こったのか分からず、ぽかんとしていた。特に優輝は美礼の腕を掴んでいたはずなのに、いつ外されたのかさえ分からなかった。
「お前……」
凌が言葉を発し、不愉快に顔をしかめる。優輝はゼクスの前に立つと、ギロッと睨んだ。
「何だてめぇ。邪魔すんな」
「邪魔なのは君の方だ」
「あぁ?」
ゼクスより身長が低い優輝だが、引けを取ることもなく睨み上げている。そんな彼にやれやれと、ため息を付いた。
「君の相手をするのは時間の無駄だ。エリー」
名を呼ぶと何処からか現れ、エリーはゼクスの背後に立つ。
「はい。何でしょう?」
「この男を任せる。そろそろ食事の時間だろう?」
その言葉にエリーはくすっと笑った。
「えぇ、さすがゼクス様。よく分かってらっしゃる」
笑いを湛えたまま、前に歩み出る。苛立ちを見せていた優輝だが、登場したエリーを上から下へと舐めるように見回し、下卑た笑いを浮かべた。
「姉ちゃんが相手してくれるって? それは楽しみだなー」
エリーは何も返さない。ただ優輝を見る赤い目に、妖しい光が帯びた。
すると彼の様子が変わる。笑っていた顔は無表情になり、酔ったようなとろんとした目になる。
「坊や如きが私の相手など、務まる訳ないでしょう。さぁ、行きなさい」
優輝はふらふらと歩き出す。エリーもそんな彼を追うように歩いて行き、ふたりは裏庭から姿を消した。
「お、おい! 何処行くんだよ!?」
呼び止めは聞かれるはずもなく。ひとり残され、怒りを露にゼクスの方に向いた。
「ただじゃおかねー……」
静かに呟き、殴り掛かろうと走り出す。その時叫び声が、凌の動きを止めた。
「凌君!」
「……愛梨」
新たに裏庭にやって来たのは、彼女の愛梨。走り回っていたのか、酷く息切れを起こしている。
「ちょっとトイレって言って、全然帰って来ないから探したんだよ。3講目はちゃんと出なきゃ、単位が――」
凌の元に駆け寄った愛梨だが、ゼクス達を見て表情が変わる。この場に美礼がいることに気付き、凌の腕を引っ張った。
「ねぇ、早く戻ろうよ」
「愛梨は先に戻ってろ。俺もすぐ行くから」
「ダメ。一緒に行くの」
「愛梨」
「だって……あの女がいるもん。どうしてここにいるの? どうしてあの女と一緒なの!?」
徐々に声が荒ぶっていく。
「凌君、さっきから何か様子が変だよ? 食堂でずっとあの女のこと見てたし……」
「それは気のせいだろ」
「気のせい何かじゃない! 凌君はあの女のことが好きなの……? あんな地味でブスな女に、私が負ける訳ないよね!?」
今まで男にちやほやされていた為、愛梨は自分に自信を持っている。その自尊心の高さから、まさか美礼に負けるとは信じられなかったし、認めたくもなかった。その思い故、ヒステリックに喚き散らす。
凌も少しうんざりしながら、でも乱暴に引き離すことも出来ずにいた。しかしゼクスは愛梨の言葉を聞き、ピクリと眉を動かした。
気付けば正面にいた優輝の姿がなく、離れた場所にいた。それだけでなく、何故か自分の体が浮いている感覚がある。
どうしてか分からずにいると、ゆっくりと体が下ろされた。そうしてゼクスにお姫様抱っこをされていたことが分かり、驚きと恥ずかしさが込み上げてきた。
「もう大丈夫。頑張ったね」
何処からともなく現れたゼクスは、にこっと微笑み、美礼の頭をぽんと叩く。同時に恐怖心は安心と変わり、思わず泣いてしまった。
一方凌と優輝も何が起こったのか分からず、ぽかんとしていた。特に優輝は美礼の腕を掴んでいたはずなのに、いつ外されたのかさえ分からなかった。
「お前……」
凌が言葉を発し、不愉快に顔をしかめる。優輝はゼクスの前に立つと、ギロッと睨んだ。
「何だてめぇ。邪魔すんな」
「邪魔なのは君の方だ」
「あぁ?」
ゼクスより身長が低い優輝だが、引けを取ることもなく睨み上げている。そんな彼にやれやれと、ため息を付いた。
「君の相手をするのは時間の無駄だ。エリー」
名を呼ぶと何処からか現れ、エリーはゼクスの背後に立つ。
「はい。何でしょう?」
「この男を任せる。そろそろ食事の時間だろう?」
その言葉にエリーはくすっと笑った。
「えぇ、さすがゼクス様。よく分かってらっしゃる」
笑いを湛えたまま、前に歩み出る。苛立ちを見せていた優輝だが、登場したエリーを上から下へと舐めるように見回し、下卑た笑いを浮かべた。
「姉ちゃんが相手してくれるって? それは楽しみだなー」
エリーは何も返さない。ただ優輝を見る赤い目に、妖しい光が帯びた。
すると彼の様子が変わる。笑っていた顔は無表情になり、酔ったようなとろんとした目になる。
「坊や如きが私の相手など、務まる訳ないでしょう。さぁ、行きなさい」
優輝はふらふらと歩き出す。エリーもそんな彼を追うように歩いて行き、ふたりは裏庭から姿を消した。
「お、おい! 何処行くんだよ!?」
呼び止めは聞かれるはずもなく。ひとり残され、怒りを露にゼクスの方に向いた。
「ただじゃおかねー……」
静かに呟き、殴り掛かろうと走り出す。その時叫び声が、凌の動きを止めた。
「凌君!」
「……愛梨」
新たに裏庭にやって来たのは、彼女の愛梨。走り回っていたのか、酷く息切れを起こしている。
「ちょっとトイレって言って、全然帰って来ないから探したんだよ。3講目はちゃんと出なきゃ、単位が――」
凌の元に駆け寄った愛梨だが、ゼクス達を見て表情が変わる。この場に美礼がいることに気付き、凌の腕を引っ張った。
「ねぇ、早く戻ろうよ」
「愛梨は先に戻ってろ。俺もすぐ行くから」
「ダメ。一緒に行くの」
「愛梨」
「だって……あの女がいるもん。どうしてここにいるの? どうしてあの女と一緒なの!?」
徐々に声が荒ぶっていく。
「凌君、さっきから何か様子が変だよ? 食堂でずっとあの女のこと見てたし……」
「それは気のせいだろ」
「気のせい何かじゃない! 凌君はあの女のことが好きなの……? あんな地味でブスな女に、私が負ける訳ないよね!?」
今まで男にちやほやされていた為、愛梨は自分に自信を持っている。その自尊心の高さから、まさか美礼に負けるとは信じられなかったし、認めたくもなかった。その思い故、ヒステリックに喚き散らす。
凌も少しうんざりしながら、でも乱暴に引き離すことも出来ずにいた。しかしゼクスは愛梨の言葉を聞き、ピクリと眉を動かした。