甘いやり取りを思い返し、恥ずかしくなる。まともに顔を上げることが出来ない美礼だったが、何故か大勢の人の視線が刺さることに気付いた。
 そこで顔を上げ周りを見ると、何人もの人がこちらを見ている。疑問に思ったが、その理由はすぐに分かった。

 ゼクスのハッとするような容姿。そのイケメンさに、目を奪われる女性が多い。その上、見慣れない眼帯をしていることも相まって、注目を浴びていたのだ。

 当の本人ゼクスは、自分の容姿は計算していない。ただ人目に付く場所に座ることで、多くの視線を集めることを目的としていた。
 だが結果として、想像以上の効果を出していた。


 周囲に気を取られていると、ゼクスに話し掛けられる。

「昨日から思っていたんだけどさ」

 そう言って手が伸びてきたかと思えば、美礼の掛けていた眼鏡を外した。

「やっぱり眼鏡がない方がいい。こっちの方が可愛いよ」

 にこっと微笑む顔を前に、美礼は言葉が出ない。
 ゼクスの逆の手が美礼の髪を梳かしていき、下りた手は頬を撫で離れた。
 その愛おしい一連の行動に、こちらを見る女達から悲鳴に似た声が聞こえた。

 美礼は動くことも忘れ、ただ目を見張る。そんな姿が面白かったのか、ゼクスは素でぷっと笑い出した。

「はははは。顔が真っ赤だよ」

 まるで茹でだこのような美礼は、ようやく我に返る。

「いや……だって、そんな……」

 ゼクスとは本当の恋人ではないが、こんなことをされたらドキドキしてしまう。心臓ははうるさいくらい早鐘を打ち、収まりそうにない。

 取った眼鏡は、ゼクスのTシャツに掛けられる。仲が良いことが嫌でも印象付けられるこの様子を、凌は終始凝視していた。

 ますます顔を俯かせてしまう美礼だが、ここで昼休みが終わる。徐々に食堂内から人がいなくなり、ゼクスも立ち上がった。

「そろそろ行こうか」
「あ、はい。あ、うん」

 慌てて立ち上がり、お盆をカウンターに返す。そしてふたり、食堂を出た。