食堂の中はもう活気付いていた。この大学の食堂は入って右側が調理場で、左側に食べる席が並ぶ。そしてその左側は大きな窓となっており、外の景色が見れる見晴らしさがあり、人気の席となっている。すでにもう何人か座っていて、空席は後僅か。

「何か食べて来ましたか? まだなら食べましょう」
「はい。あ、あそこで食券を買います」

 説明をして、ふたりで食券を買う。カウンターからお盆を受け取り、席に向かう。

「ここに座りましょう」

 ゼクスが提案した席は、食堂に入って来た人の目に付く中央の、人気のない場所だった。
 まだあっちが空いているのに。そう思いながらも、美礼は向かいに座る。
 ゼクスはカレーを頼み、美礼はオムライスを頼んだ。

「では美礼さん。すみませんが、ここから敬語は止めますので、了承して下さいね」

 はいと返事して、ふたりで頂きますと手を合わす。ゼクスはカレーをまじまじと見つめてから、一口スプーンを運んだ。

「ほぅ、なかなかスパイスの効いた食べ物だ」

 ゆっくり味わう姿を見ながら、美礼は疑問に思う。カレーを食べたことがないのかな? 外人さんと言え、カレーはどの国にでもありそうなのにと。

 しかし口には出さず、オムライスを食べたところで、ゼクスが顔を近付けてきた。

「原田凌が来た」
「え?」

 美礼は出入口から背を向けた格好なので、凌の姿が見えない。凌は彼女――愛梨と共にやって来た。

 どうしたらいいのだろう? 久々に会うことになる形に、不安や緊張に表情を固まらせる。
 すると目の前に、スプーンが差し出された。

「このカレー美味しいよ。美礼も食べてみて」

 ふいに呼び捨てで呼ばれ、ドキッとしてしまう。正面にあるスプーンは、どう言うことかの意味が分かり戸惑うが、恐る恐る口を開けた。

「どう? 美味しいだろ?」
「は、はい」
「美礼も敬語は止めて? 俺達は恋人だろう」

 そう言われ、また心臓が高鳴る。凌を見返す為の設定だと、慌てて理解し直した。


 凌のことが気になって、カレーの味はいまいち分からない。

「あの、凌君の様子は……?」
「俺達の今の様子を見ていたよ。驚いてはいたけど、まだ信じられないと言った感じかな?」

 この様子を見て、どう感じただろう? 少しでも嫉妬していればいいと思う。

 ゼクスは凌が席に着いたのを確認した。愛梨も隣に座る。ふたりから遠く離れた所ではあるが、ちゃんと様子を伺える席であると言うことも把握する。