翌日、待ち合わせ10分前。大学構内でいた美礼は、きょろきょろと辺りを見渡していた。

 12時とは言われたものの、何処で待ち合わせか聞いていなかった。連絡しようにも、あの店の番号が分からない。ネットで検索はしたが、情報は何ひとつなかった。

 今の時刻は、もうすぐで2講目が終わると言ったところ。廊下にいるのは美礼だけだが、授業が終われば人で溢れる。
 休学届けを出しているので、大学に来るのは数日ぶり。あの日のことが嫌でも思い出され、一刻も早く離れたい気分になった。

 だが凌を見返す為だと、自分を奮い立たせる。待ち合わせをするなら、やはり見やすい所だと考え、校門に向かうことにした。


「美礼さん」

 そこで声が掛かる。振り返ると、こちらに向かって歩くゼクスがいた。隣にはエリーもいる。

「お待たせしました。おはようございます」

 美礼の前で足を止め、にこりとゼクスが笑う。

「あ、おはようございます」

 慌てて挨拶を返してから、改めてふたりを見た。

 昨日のゼクスはカチッとしたシャツ姿だった。が今日は、今時の格好と言った感じだ。クラッシュ加工のパンツにブーツを合わせ、さらっとロングカーディガンを羽織っている。
 それがとても似合っていて、素直にかっこいいなと思った。

 一方エリーもチャイナドレスではなく、肩が出るオフショルダーの白いワンピースを着ている。だが大きい胸が今にも見えそうで、女の美礼でも目のやり場に困った。


「今日、原田凌は登校していますか?」
「え、あ、多分……。見ていないので分かりませんが」

 話を振られた美礼は、逸らしていた目を正面に戻す。

「そうですか。でも問題はないでしょう。ではまず食堂に行きましょうか」
「分かりました」

 答えたところで、チャイムが鳴った。2講目が終わり、徐々に人が出てきた。廊下にいるゼクス達に自然と視線が集まる。

「あの女の人、めちゃくちゃ綺麗なんだけど」
「いやそれより、あの胸やべー」
「あんな男いた?」
「あの人、めっちゃかっこよくない?」

 ざわざわと話し声が聞こえてくるが、ゼクスに気にする素振りは見られない。美礼から目線を外すことなく、口を開いた。

「エリー」
「はい。ご用があれば呼んで下さい」

 それだけを言うとエリーは踵を返し、ヒールの音を鳴らしながら何処かへと行ってしまった。
 そんな彼女を目で追って行く男共をぽかんと見ていると、

「行こう」

 美礼の背中に優しく手が添えられ、エスコートされる。その行為に驚き見上げると、ゼクスはにこっと微笑んでいた。