契約承諾書


あなたの最期の願いを叶えます。
報酬金はいりません。

以下にあるサイン欄に名前を記入した時点で、了承したと判断致します。

ひとつ、契約の注意点として。
あなたが叶えたい願いはあくまでも "最期" だと言うことを、くれぐれもお忘れなきよう。



 契約書の一文は以上だった。そして最後に名前を書く記入欄がある。
 読み終えた美礼は顔を上げた。

「名前を書いたらもう変更は出来ません。ですからやっぱり止めようと思うなら、今引き返して下さいね」

 ゼクスは穏やかな笑みを湛えているが、その中に何となくの凄みもあった。
 美礼はその雰囲気に怖さを感じながらも、意を決する。

「契約に了承します」
「ありがとうございます。では名前を書いて下さい」

 机の上に置かれたボールペンが、ことりと音を立てる。ゆっくりした動作で手にすると、美礼はサインを書く。
 その姿を黙って見つめ、書き終わるまで見守ると、ゼクスはにっと笑った。


「これで手続きは終わりです。ここからは依頼の内容の話をしましょう。あなたの願いについて、こうしたいとか、こうして欲しいと言った要望はありますか?」
「いえ……特には。ただ凌君に悔しいって思ってもらえれば」
「分かりました。では内容は、こちらで考えさせて頂きますね」
「はい。よろしくお願いします」
「それと、いつから始めますか? 我々は今日でも構いません。ですが美礼さんの都合もありますから、明日以降でも構いません」

 そう聞かれ、美礼は悩む。すみませんと言ってから、スマホを取り出した。
 メモのところに、凌の大学講義の時間割りを書いてあった。それをまだ残してあったので、見ながら考える。

 水曜日なら講義が詰まっていて、1日大学にいる。落とせばまずい講義も水曜日にあり、その日なら必ず大学にいるだろうと踏む。
 ホーム画面に戻り、今日の日付けを確認すると、明日が水曜日だった。

「明日にお願い出来ますか?」
「もちろんです。じゃあそうだな……。昼の12時に、美礼さんの大学で待ち合わせにしましょう」
「分かりました。よろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げ、美礼は置かれたカップを見やる。せっかく用意してもらったものを残しては失礼だと、すっかり冷めた紅茶を急いで飲み干した。

「えっと。これで失礼します」
「はい。気を付けてお帰り下さいね」

 ゼクスは立ち上がり、扉を開けて見送る。リーンリーンと鳴るドアベルを見て、美礼は慌てて外に出た。

 深いお辞儀の後、扉が閉められる。それを見届けてから、美礼ははぁーと息を吐いた。