「――それは何て酷い。その男、最低ですね」

 ひと通りの話を聞いて、ゼクスは眉を寄せる。美礼に同調するよう、悲しい声色で言った。

「それ以降大学には通ってなくて……。退学は出来ないから、今は休学届けを出しています。それからは凌君とも会っていないし、連絡も送っていません」
「彼から連絡は?」
「ありました。最初は。でも私が無視していたので、その内なくなりました」
「そうですか」

 ゼクスは紅茶を飲もうとして、カップの中を見る。しかし空っぽだと思っていると、エリーがおかわりを注いだ。
 湯気が立ち上る熱い紅茶を一口飲み、目を伏せる美礼を見る。

「それで、あなたが叶えたい願いとは?」
「……凌君を。凌君を見返してやりたいんです。私を騙したことを、ただ後悔させてやりたい」

 願いを口にし、膝の上に置いていた手をぎゅっと握り締める。力強さからして、それ程までに悔しかったし、辛かったのだろう。

「復縁も希望していますか?」
「いえ、それはありません。もう彼のことは信じられないし、やり直したいとも思いません」

 まさかそんなことを聞かれるとは思っていず、慌てて答える。
 即答で否定した美礼を見て、ゼクスは何故かにっこりと笑った。

「それならよかった」
「……よかった?」
「あぁ、美礼さんに復縁は無理だとか、そう言う訳ではないんです。復縁は叶えてあげることが出来ないから」
「はぁ……」

 言っている意味がよく分からなかった。だが復縁ほ元より考えていなかったので、まぁいいかと流した。


「では、美礼さんの願いを叶える前に」

 ゼクスがそう言うと、エリーが1枚の紙を出した。それを受け取り、美礼の前に置く。細かく色々書いてあるが、上部の『契約承諾書』と言う文字に目が奪われた。

「ゆっくりで構いませんので、まずはその紙の内容をよく読んで下さい」

 言われるがまま、美礼は手に取り目を通す。最初こそ店の雰囲気からどこか胡散臭いと思っていたが、承諾書の存在に現実味を感じ始めた。