「レイヴさん大丈夫ですか!?」
真っ先に呼び掛けてきたのはメントだ。
メントがレイヴの肩を掴み、心配そうな表情でレイヴを覗き込んでいた。
「心配するのはソロの方だ!たった一人であんな数を相手にするのは無茶が過ぎるぞ!」
レイヴは顔の痛みを気にせず立ち上がり、ソロの方へ向かおうとする。
「おすすめはしないわよ」
レイヴを呼び止めたのは青い髪の壁使い、ウィッカだった。
「アイツは天災よ。アイツが勝手気ままに行動すればその被害を被るのは近くに居る私たち。落ち着くまで放っておくに限るわ。痛い目見るならそれも良し、アイツに良い薬になるでしょうよ」
他人事のように言うウィッカ。メントは言葉に詰まった様子でまごまごしていた。
「天災って言うけどそれ以前にソロは同じクラスメイトだぞ!放っておけるかよ!俺は一人でも行くぞ!」
レイヴは二人を振り切り、ソロの戦いを見た。
そこには思ってもいない光景があった。
一方的な蹂躙。
ソロが一つ行動を起こすだけで何十人と言う人が宙を舞い、蹴散らされる。人間業とは思えない。
「ウソだろ?」
「驚くのも無理はない」
言葉の主はナナキだった。
「なにか知ってんのか?」
「率直に言うと、彼は街三天の一角にしてファースタ最強の人間だよ」
「なん、だって?」
「なにそれ、初耳なんだけど」
「私もです」
「先生も聞かせてもらおうか」
思わぬナナキの告白にクラスの皆や先生が振り向いた。構わずナナキは続ける。
「街三天とはそこのトップだけではなく、トップに着いてくる人間も含めて街三天と呼ばれるものだ。
けどね、ソロは一人なんだ。着いてくる人間は居ないし、着いてきたとしても彼が追い払う。そんな風に一人だけで街三天の一角を担う。たった一人で勢力を織り成しているんだよ」
以前レイヴが戦ったイグニット勢力の軍勢は恐ろしく強かった。メントと二人で辛うじて戦闘と呼べる立ち振る舞いは出来たが、切り抜けるだけでも命懸けの賭けだった。それをあの男は一人で相手取る実力があると言うのか。
「そんなに凄かったのか、アイツ」
レイヴが今なおワンサイドゲームを展開するソロの方を見た。クラスの皆も釘付けのようだ。
こちらに流れ弾一つ飛んでこない。ソロが宣言通り防いでいるのだ。クラスのためではなく自分のために。
「さて、あの戦いに巻き込まれる心配が全く必要がないと分かったところで、最後の計測を始めましょう先生。もう授業が終わってしまう」
ナナキが目の前に展開される戦いに心奪われている先生に促した。
「あ、ああ。……次はレイヴ!」
「例によって君が最後だ、新生レイヴの力を見せてくれ!」
「お、おう」
そう言ってレイヴはナナキに背中を押され、先生の生成した大岩の前に立った。
目を閉じ深呼吸をしつつ、拳に思いを込める。最近手に入れたクオリア、走る雷道《エレグロード》。
もう無能のレイヴとか呼ばせない、刮目しろ皆、これが新生レイヴだ!!
「でやああああ!!」
カッと目を見開いてレイヴは大岩まで距離を詰める。
――――――――――――――
レイヴのクラスメイトの大半は、レイヴの試験など眼中になく、ソロの戦いに注目が集まっていた。
「少しは焦らせてくれると思ったんだがな。もっと無い頭振り絞ってもらいたかったもんだぜ」
欠伸をしながらごちるソロの背後には倒された五百人が積み上げられ山が出来ていた。
相対するは一人きりとなったラオヒゼン。
「もはやここまで、とは言わん。ここからだぞ、ソロ。
このラオヒゼンは半獣だったのだ!!
獣人形態になると圧倒的な力を手に入れる!ただ理性を失い、舎弟を巻き込むので一人でなければ使えんのが欠点だがもう心配はいらん!」
「口上はいいからとっとと見せやがれ。獣人の力ってやつをよ」
「かああッ!!」
ラオヒゼンが力を込める。
全身の筋肉が隆起し、顔を初めとする全身の骨格がぐじゅりぐじゅりと歪な音を立てて変わってゆく。全身を金毛が覆い、眼光も捕獲者のソレと変わり果てた。
残ったものは飢えた捕獲者の戦闘本能のみ。
「グウウ……」
ソロは一歩も引かない。
顔色一つ変えすらしない。
ギラギラした目は獣人の強さ《価値》を冷たく静かに吟味している。
「ガアッ!!」
飛びかかるラオヒゼン、変化前より遥かに上がった速度にソロが僅かに目を見開く。
その頬に切れ込みが走り、つぅっと血が垂れた。
ラオヒゼンは既にソロの背後まで移動していた。振り向きざまに太い豪腕を振り下ろす。
すんでの所でソロが身体を逸らして避ける。
衝撃でグラウンドにクレーターが生まれ、衝撃でソロは足を地面に着けたまま後方に吹き飛んだ。
ラオヒゼンの猛襲は留まる事を知らず、体勢を立て直すソロへ渾身のラッシュを叩き込んだ。
が、ラオヒゼンのラッシュは突然、停止した。
ソロの手が、ラオヒゼンの太い両腕を抑え込んでいたのだ。
ラオヒゼンが猛獣ならばソロは正確に敵を破壊する暗殺者だ。暗殺者というには派手で、加減を知らないが。
「少しは驚いた。力も速度もさっきとは比べ物にならないくらいに上がった。
だか半端すぎる。こんな程度じゃ、勢力引き連れて頭脳プレイしていた方がずっとマシだってもんだぜ!!」
ソロが拳の甲でラオヒゼンの右肘を叩く。木の棒のようにラオヒゼンの肘が向いてはいけない方向に曲がった。
「―――――――――――――――ッッ!!!」
ラオヒゼンが咆哮のような悲鳴を上げ、右肘を抑えながら仰け反った。ソロは瞬時にその懐に踏み込み、ラオヒゼンの胸の真ん中に拳銃の形を作った手を当てた。
「程度は知れた、もう寝てな」
手の拳銃を拳に変え、手首のスナップだけで胸の真ん中に叩き込む。
大地に響く重低音。がくり、とラオヒゼンの大きな体躯が揺れ、ゆっくりと崩れ落ちた。
―――――――――――――――――――――――
ソロがラオヒゼンに拳を叩き込んだ頃、レイヴもまた僅かなクラスメイトの見守る中、望力《思い》を乗せた己の拳を試験用大岩に叩き込んでいた。
「…………………………。」
ミシミシ、と何かが軋む音。
しばらくして岩の表面に亀裂が入ったかと思うと次には大岩は無数の岩や石となって砕け散った。
クオリアが使えなくともこれくらいは出来た。問題はここから。
先生が望力の測定値を確認する。
十秒にも満たない時間の筈なのに酷く長く感じる。逸る気持ちを抑えて先生の言葉を待った。
「えーっと、二十点」
それは手放しに喜ぶなど出来ないような点数だった。大抵ががっくりと肩を落とすような結果だった。
それでも、だ。
「しゃあっ!!」
レイヴはガッツポーズを決めていた。
レイヴの測定模様を見ていた数少ないクラスメイトも歓声を上げた。
「二十点!!遂に二十点取ったぞ!!ははっ!!ゼロが二十に増えた!!いえーい!!」
飛び跳ねはしゃぎながらみんなのもとへ戻るレイヴにクラスメイトたちがハイタッチしながら祝いの言葉を並べた。
「すげえぞレイヴ!」
「遂にやったじゃん!!」
はしゃぐレイヴに青髪のウィッカがコホンと咳払いをして口を開いた。
「水を差すようで悪いけど、本当にクオリア発現してるの?クオリアを使ったかすらも分かんなかったけど」
指摘されたレイヴの顔が曇る。
「よく分かんねえけどまだ発現したてだからじゃねえの?使っていくうちにもっとくっきり使えるようになるさ、多分」
「そうは言うけど、今日の登校で神様に殺されかけた時ははっきりと雷光が見えたよ?」
「あの時は必死だったからじゃね?魔寄いの森でもすげえ光ってたし」
しれっととんでもない事を言ったナナキの言葉クラスメイトたちがギョッとしていた。
「か、神様ってニアルパイオ様……ですよね?一体何をしたんですか?」
皆の疑問を代弁するようにメントが言う。
「まあ、色々あってな。後で話すわ
とりあえず二十点取れたから良し、だな!」
聞きなれたチャイムの音が、授業の終わりを告げる。
それに合わせて先生が終わりの号令を掛けた。
その最中、レイヴはハッ、ある事を思い出した。
「そうだ!ソロ、ソロはまだ居るか!?」
彼はソロに聞きたいことがあったのだ。
キョロキョロと周囲を見渡す。
クラスメイトが教室に戻り、先生たちがすっかり伸びているラオヒゼン勢力の後始末にアタフタしている混迷の中、一人マイペースに窓から教室へ跳び戻ろうとするソロの姿があった。
「おーいソロ!!」
「あぁ?」
口を開く事すら億劫な様子で、首だけを曲げて真黒の髪の少年はレイヴを見た。
「お前って、何か強い目的があって強さを追い求めてんだろ?何を目指しているんだ?」
ソロの目に見た意思の強さは、自分に通ずるものがあった。レイヴで言う所の開拓者になるという野望。
何がなんでも叶えたい夢がある、そんな頑なな意思をソロに見たのだ。
少なくとも学校でダントツで最強になってなお、強さを求めるのは何故なのか。それが知りたい。
「何って、『自分の人生』だよ」
日が東から昇って西に沈むという常識を語るように、ソロは言った。
「『自分の人生』?なんだそれ」
「さあ、意味もなく高説垂れるって性じゃねえんだ。テメエで勝手に考えな」
「コミュ障か!?自分の人生がどーのこーの言われても分かんねえぞ?」
「……チッ」
ソロは胸糞悪い物でも見たような面になった。気になりはするが、ソロにとってよほど語りたくはないのだろうか。
「……経緯や理由はどうあれ、俺は強くならなくちゃならねえのは確かだ」
そう言って、ソロはようやく振り向いた。
「それと見つけ出す必要がある。アルカディアスとかいうクソふざけた組織をな。
お前、俺に関心があるなら俺を苦戦させるかアルカディアスに関する情報を持ってこい。そしたら少しくらい構ってやるよ」
「待てって。肝心の『理由』が分かんねえぞ。アルカディアスとかいうのと何の関係があるってんだ」
ソロの姿が揺らいだ。そう思った次には胸ぐらを掴まれていた。
「これ以上、踏み込んでくるな」
ソロの鋭い視線がレイヴを貫いた。それでも、やはりレイヴは気になってしょうがなかった。あんな強い意志を含んだ視線など見たことがない。その視線がどこに向かっているのか知りたい。自分の好奇心が抑えられない。
「一言でいい、教えてくれないか?何でか無性に気になって仕方がないんだ」
重厚なプレッシャーを放つソロの視線を真っ向から受け止めて、レイヴは改めて頼んだ。
「分からねえ野郎だな」
レイヴの腹部に強い衝撃が走る。
ソロの空いた拳がレイヴに向けられたのだ。
「ぐっ、あ」
くの字に身体を曲げてレイヴはその場に蹲った。
ソロは唾を吐き捨てて教室に跳び戻った。
真っ先に呼び掛けてきたのはメントだ。
メントがレイヴの肩を掴み、心配そうな表情でレイヴを覗き込んでいた。
「心配するのはソロの方だ!たった一人であんな数を相手にするのは無茶が過ぎるぞ!」
レイヴは顔の痛みを気にせず立ち上がり、ソロの方へ向かおうとする。
「おすすめはしないわよ」
レイヴを呼び止めたのは青い髪の壁使い、ウィッカだった。
「アイツは天災よ。アイツが勝手気ままに行動すればその被害を被るのは近くに居る私たち。落ち着くまで放っておくに限るわ。痛い目見るならそれも良し、アイツに良い薬になるでしょうよ」
他人事のように言うウィッカ。メントは言葉に詰まった様子でまごまごしていた。
「天災って言うけどそれ以前にソロは同じクラスメイトだぞ!放っておけるかよ!俺は一人でも行くぞ!」
レイヴは二人を振り切り、ソロの戦いを見た。
そこには思ってもいない光景があった。
一方的な蹂躙。
ソロが一つ行動を起こすだけで何十人と言う人が宙を舞い、蹴散らされる。人間業とは思えない。
「ウソだろ?」
「驚くのも無理はない」
言葉の主はナナキだった。
「なにか知ってんのか?」
「率直に言うと、彼は街三天の一角にしてファースタ最強の人間だよ」
「なん、だって?」
「なにそれ、初耳なんだけど」
「私もです」
「先生も聞かせてもらおうか」
思わぬナナキの告白にクラスの皆や先生が振り向いた。構わずナナキは続ける。
「街三天とはそこのトップだけではなく、トップに着いてくる人間も含めて街三天と呼ばれるものだ。
けどね、ソロは一人なんだ。着いてくる人間は居ないし、着いてきたとしても彼が追い払う。そんな風に一人だけで街三天の一角を担う。たった一人で勢力を織り成しているんだよ」
以前レイヴが戦ったイグニット勢力の軍勢は恐ろしく強かった。メントと二人で辛うじて戦闘と呼べる立ち振る舞いは出来たが、切り抜けるだけでも命懸けの賭けだった。それをあの男は一人で相手取る実力があると言うのか。
「そんなに凄かったのか、アイツ」
レイヴが今なおワンサイドゲームを展開するソロの方を見た。クラスの皆も釘付けのようだ。
こちらに流れ弾一つ飛んでこない。ソロが宣言通り防いでいるのだ。クラスのためではなく自分のために。
「さて、あの戦いに巻き込まれる心配が全く必要がないと分かったところで、最後の計測を始めましょう先生。もう授業が終わってしまう」
ナナキが目の前に展開される戦いに心奪われている先生に促した。
「あ、ああ。……次はレイヴ!」
「例によって君が最後だ、新生レイヴの力を見せてくれ!」
「お、おう」
そう言ってレイヴはナナキに背中を押され、先生の生成した大岩の前に立った。
目を閉じ深呼吸をしつつ、拳に思いを込める。最近手に入れたクオリア、走る雷道《エレグロード》。
もう無能のレイヴとか呼ばせない、刮目しろ皆、これが新生レイヴだ!!
「でやああああ!!」
カッと目を見開いてレイヴは大岩まで距離を詰める。
――――――――――――――
レイヴのクラスメイトの大半は、レイヴの試験など眼中になく、ソロの戦いに注目が集まっていた。
「少しは焦らせてくれると思ったんだがな。もっと無い頭振り絞ってもらいたかったもんだぜ」
欠伸をしながらごちるソロの背後には倒された五百人が積み上げられ山が出来ていた。
相対するは一人きりとなったラオヒゼン。
「もはやここまで、とは言わん。ここからだぞ、ソロ。
このラオヒゼンは半獣だったのだ!!
獣人形態になると圧倒的な力を手に入れる!ただ理性を失い、舎弟を巻き込むので一人でなければ使えんのが欠点だがもう心配はいらん!」
「口上はいいからとっとと見せやがれ。獣人の力ってやつをよ」
「かああッ!!」
ラオヒゼンが力を込める。
全身の筋肉が隆起し、顔を初めとする全身の骨格がぐじゅりぐじゅりと歪な音を立てて変わってゆく。全身を金毛が覆い、眼光も捕獲者のソレと変わり果てた。
残ったものは飢えた捕獲者の戦闘本能のみ。
「グウウ……」
ソロは一歩も引かない。
顔色一つ変えすらしない。
ギラギラした目は獣人の強さ《価値》を冷たく静かに吟味している。
「ガアッ!!」
飛びかかるラオヒゼン、変化前より遥かに上がった速度にソロが僅かに目を見開く。
その頬に切れ込みが走り、つぅっと血が垂れた。
ラオヒゼンは既にソロの背後まで移動していた。振り向きざまに太い豪腕を振り下ろす。
すんでの所でソロが身体を逸らして避ける。
衝撃でグラウンドにクレーターが生まれ、衝撃でソロは足を地面に着けたまま後方に吹き飛んだ。
ラオヒゼンの猛襲は留まる事を知らず、体勢を立て直すソロへ渾身のラッシュを叩き込んだ。
が、ラオヒゼンのラッシュは突然、停止した。
ソロの手が、ラオヒゼンの太い両腕を抑え込んでいたのだ。
ラオヒゼンが猛獣ならばソロは正確に敵を破壊する暗殺者だ。暗殺者というには派手で、加減を知らないが。
「少しは驚いた。力も速度もさっきとは比べ物にならないくらいに上がった。
だか半端すぎる。こんな程度じゃ、勢力引き連れて頭脳プレイしていた方がずっとマシだってもんだぜ!!」
ソロが拳の甲でラオヒゼンの右肘を叩く。木の棒のようにラオヒゼンの肘が向いてはいけない方向に曲がった。
「―――――――――――――――ッッ!!!」
ラオヒゼンが咆哮のような悲鳴を上げ、右肘を抑えながら仰け反った。ソロは瞬時にその懐に踏み込み、ラオヒゼンの胸の真ん中に拳銃の形を作った手を当てた。
「程度は知れた、もう寝てな」
手の拳銃を拳に変え、手首のスナップだけで胸の真ん中に叩き込む。
大地に響く重低音。がくり、とラオヒゼンの大きな体躯が揺れ、ゆっくりと崩れ落ちた。
―――――――――――――――――――――――
ソロがラオヒゼンに拳を叩き込んだ頃、レイヴもまた僅かなクラスメイトの見守る中、望力《思い》を乗せた己の拳を試験用大岩に叩き込んでいた。
「…………………………。」
ミシミシ、と何かが軋む音。
しばらくして岩の表面に亀裂が入ったかと思うと次には大岩は無数の岩や石となって砕け散った。
クオリアが使えなくともこれくらいは出来た。問題はここから。
先生が望力の測定値を確認する。
十秒にも満たない時間の筈なのに酷く長く感じる。逸る気持ちを抑えて先生の言葉を待った。
「えーっと、二十点」
それは手放しに喜ぶなど出来ないような点数だった。大抵ががっくりと肩を落とすような結果だった。
それでも、だ。
「しゃあっ!!」
レイヴはガッツポーズを決めていた。
レイヴの測定模様を見ていた数少ないクラスメイトも歓声を上げた。
「二十点!!遂に二十点取ったぞ!!ははっ!!ゼロが二十に増えた!!いえーい!!」
飛び跳ねはしゃぎながらみんなのもとへ戻るレイヴにクラスメイトたちがハイタッチしながら祝いの言葉を並べた。
「すげえぞレイヴ!」
「遂にやったじゃん!!」
はしゃぐレイヴに青髪のウィッカがコホンと咳払いをして口を開いた。
「水を差すようで悪いけど、本当にクオリア発現してるの?クオリアを使ったかすらも分かんなかったけど」
指摘されたレイヴの顔が曇る。
「よく分かんねえけどまだ発現したてだからじゃねえの?使っていくうちにもっとくっきり使えるようになるさ、多分」
「そうは言うけど、今日の登校で神様に殺されかけた時ははっきりと雷光が見えたよ?」
「あの時は必死だったからじゃね?魔寄いの森でもすげえ光ってたし」
しれっととんでもない事を言ったナナキの言葉クラスメイトたちがギョッとしていた。
「か、神様ってニアルパイオ様……ですよね?一体何をしたんですか?」
皆の疑問を代弁するようにメントが言う。
「まあ、色々あってな。後で話すわ
とりあえず二十点取れたから良し、だな!」
聞きなれたチャイムの音が、授業の終わりを告げる。
それに合わせて先生が終わりの号令を掛けた。
その最中、レイヴはハッ、ある事を思い出した。
「そうだ!ソロ、ソロはまだ居るか!?」
彼はソロに聞きたいことがあったのだ。
キョロキョロと周囲を見渡す。
クラスメイトが教室に戻り、先生たちがすっかり伸びているラオヒゼン勢力の後始末にアタフタしている混迷の中、一人マイペースに窓から教室へ跳び戻ろうとするソロの姿があった。
「おーいソロ!!」
「あぁ?」
口を開く事すら億劫な様子で、首だけを曲げて真黒の髪の少年はレイヴを見た。
「お前って、何か強い目的があって強さを追い求めてんだろ?何を目指しているんだ?」
ソロの目に見た意思の強さは、自分に通ずるものがあった。レイヴで言う所の開拓者になるという野望。
何がなんでも叶えたい夢がある、そんな頑なな意思をソロに見たのだ。
少なくとも学校でダントツで最強になってなお、強さを求めるのは何故なのか。それが知りたい。
「何って、『自分の人生』だよ」
日が東から昇って西に沈むという常識を語るように、ソロは言った。
「『自分の人生』?なんだそれ」
「さあ、意味もなく高説垂れるって性じゃねえんだ。テメエで勝手に考えな」
「コミュ障か!?自分の人生がどーのこーの言われても分かんねえぞ?」
「……チッ」
ソロは胸糞悪い物でも見たような面になった。気になりはするが、ソロにとってよほど語りたくはないのだろうか。
「……経緯や理由はどうあれ、俺は強くならなくちゃならねえのは確かだ」
そう言って、ソロはようやく振り向いた。
「それと見つけ出す必要がある。アルカディアスとかいうクソふざけた組織をな。
お前、俺に関心があるなら俺を苦戦させるかアルカディアスに関する情報を持ってこい。そしたら少しくらい構ってやるよ」
「待てって。肝心の『理由』が分かんねえぞ。アルカディアスとかいうのと何の関係があるってんだ」
ソロの姿が揺らいだ。そう思った次には胸ぐらを掴まれていた。
「これ以上、踏み込んでくるな」
ソロの鋭い視線がレイヴを貫いた。それでも、やはりレイヴは気になってしょうがなかった。あんな強い意志を含んだ視線など見たことがない。その視線がどこに向かっているのか知りたい。自分の好奇心が抑えられない。
「一言でいい、教えてくれないか?何でか無性に気になって仕方がないんだ」
重厚なプレッシャーを放つソロの視線を真っ向から受け止めて、レイヴは改めて頼んだ。
「分からねえ野郎だな」
レイヴの腹部に強い衝撃が走る。
ソロの空いた拳がレイヴに向けられたのだ。
「ぐっ、あ」
くの字に身体を曲げてレイヴはその場に蹲った。
ソロは唾を吐き捨てて教室に跳び戻った。