残された和人は釈然としないまま、背もたれに深く体を預けた。
何故、彼女はあのマンションの住人を装っていたのか。
いや、装わなければならなかったのか。
何か分かりそうで分からない思いが渦巻く。
マンションの防犯カメラを見たら何か分かるのではないか。
肝心の穴がある部分は死角になっていたが、マンション出入り口は映しているはず。
いや、彼女は犯罪を犯したわけではない。
部外者であった彼女が出入りしていたことを表沙汰にしていいものか……。
そこまで考えてまたもハッとさせられた。
彼女が階段で帰っていた理由。
エレベーターに一緒に乗り込んで号数を聞かれない為……。
いや、安全対策から、エレベーターは住んでいる階にしか止まらない。
全てが用意周到にどこかへ向かっている気がしてならない。
寒くもないのに背中に冷たいものが流れていく。
不意にポケットへ入れたままだった携帯が何かの連絡を受信した。
その小さな振動に驚いて体を揺らす。
こんなに小心者だったか、俺。
肝を冷やした自分に自嘲しつつ携帯を確認した。
画面にはニュース速報が届けられた表示がされている。
それを読んで身の毛のよだつ思いがした。
震える手でニュースの全容を確認した。