彼女は違った。
自分の利益の為に他人を蹴落とすような人ではない。
僅かに知っている彼女のイメージと大きく違わないであろう紗香に安心する。
それなのに、どうしてか心は晴れない。
どうしてか、何か心に靄がかかったようだった。
偽装のあったマンションに過去住んでいた紗香。
偽装マンションで住人のフリをしていた紗香。
そして賃貸物件仲介業社に勤めていた……。
様々なピースは提示されているのに、一番肝心のピースを無くしてしまったジグソーパズルを解いているようだった。
「他にもっと重要なこと。
何か彼女のことで知ってることはないのか」
思い詰めた質問はストーカーの矢代でさえ怪訝な表情を浮かべさせた。
「ボクが知っていることは全て話しましたよ」
本当なのかは矢代からは読み取れなかった。
真相は分からない。
けれど自分が感じている違和感を矢代へ話す気にもなれず、そうこうしているうちに矢代は去っていった。