「仕事。彼女はなんの仕事をしてたんだ」
和人の嫌な予感は見事、的中してしまった。
汚らしい矢代の口元から聞きたくない単語がこぼれる。
「不動産関係ですよ」
彼女か。彼女こそが偽装が判明して恩恵を享受する人物だったのか。
指先が冷たくなっていき、震えそうな手元を誤魔化すように腕組みをする。
矢代は和人が自分よりも紗香のことを知らないと知って嬉しそうに続けた。
「アパートを紹介する、ほら有名なスマイルスマイルですよ。
ボクも一人暮らしを始める時、紗香さんにお世話になって……」
聞いてもいない紗香と知り合ったきっかけまで話し始めた矢代をよそに、和人は息をついた。
矢代が言うように賃貸物件仲介業社のスマイルスマイルは有名な会社だ。
仲介業社の為、どこの建築会社が建てたのかは関係なく紹介だけしている。
紹介する中間マージンで利益を得ている会社だ。
桜下マンションを設計した設計事務所は賃貸の物件も手がけているはずだ。
今回の偽装が発覚したからと言ってスマイルスマイルが打撃を受けることはあっても恩恵は受けないだろう。