思い返してみてハッとした。
 紗香と一緒に帰った日は全て。
 エントランスのオートロックは和人が解錠していた。
 住人だと信じて疑わず後ろをついてくる彼女に何の疑問も感じなかった。

 それにしてもタイミングが良過ぎないだろうか。
 住んでいなかったとはいえ、住んでいるフリをしていた桜下マンションに住めなくなった途端、姿を消した。

 まるでこうなることを予期していたかのように。

「それに可哀想なんですよ。紗香さん。
 前に住んでいたところが今回みたいに偽装マンションで。
 だからアパートへ引っ越したんですけどね」

 知らなかった紗香の事情に俯いていた顔を上げた。

 立て続けに……。

「お、お前、何か他に知ってるだろ」

 どうしてか、胸騒ぎがして矢代に詰め寄った。

「何がですか? ボクは何も知りませんよ」

 とぼけているのか、本当に知らないのか。
 矢代は煩わしそうに返事をするばかりで話にならない。