「だから、紗香さんはどこにいるんだよ!」
苛立ちで声を荒げると周りの注目を集めてしまった。
バツが悪くなり小さくなると矢代はクスクスと笑った。
その仕草が嫌味にしか思えず、和人の気持ちを逆撫でした。
「今まで住んでいたアパートをボクの知らないうちに解約したので、今、紗香さんがどこにいるのかボクにも分かりません」
肩を竦めて見せた矢代に愕然とした。
マンションでなく、アパート。
「それは、もちろん……桜下マンションではないってことだな」
呆然とする和人を嘲笑うように「お兄さんも大概だな。それ、あなたの妄想でしょ?」と言ってのけた。
あぁ、だからストーカー呼ばわりされたのか。
妄想で同じマンションの住人だと言い張っていると。
和人にしてみれば桜下マンションの住人と思っていた紗香が忽然と姿を消した。
偽名を言われたと思ったが、矢代の情報を頼りに購入者から借りていたのかと思い直した。
けれど、根本が違っていた。
偽名でも、また借りでもなく、大塚紗香は桜下マンションに住んでいなかったのだ。
しかし……。