いつも手厳しい上司が和人のあまりのやつれ具合に休みを取るように勧めてくれた。
 マンション偽装に巻き込まれ、心身共にやられたのだと労ってくれた。
 思わぬ優しさが身に沁みてありがたく休みをもらうことにした。

 慌ただしい日々から一線を画した時の流れ。
 ゆったりとした時間を過ごすうちに、紗香と元彼とのいざこざに巻き込まれただけだったのだという結論に達した。

 一瞬の夢を見られただけ幸せだったと思うことにしよう。
 どう考えてもあんな汚らしい男よりも自分の方がよほどいい男だとの自負はあるが、人の好みなんて分からない。

 腑に落ちない点はいくつかあるが、彼女とは何も始まっていなかったのだから文句を言う筋合いもない。

 せめてぶつかって気持ちを伝えられていたら違っただろうか。
 そんな思いが頭をもたげては消えて、ため息を深くさせた。

 次にこの人は、と思う人に出会ったらすぐさま行動に移そう。
 今回のことでマンションを決める上での心構えに女性、延いては将来の伴侶になるかもしれない人への接し方まで考えさせられた。

 次にマンションを買う時は一人ではなく、二人で選ぶことができるよう努力しよう。
 もちろん自分の隣には生涯を共にする伴侶……。

 取り留めのない考えが浮かんでは消えた。