取り急ぎ必要な荷物をバッグに詰め、仮住まいへ行こうとマンションを出た。
 すると外で揉めている若い男女に出くわした。

 男女のいざこざほど関わりたくないものはない。

「紗香さん。だからボクと……」

 紗香、だって?

 これ以上のいざこざに巻き込まれないように、視界へ入れないようにしていた二人の方へ顔を向ける。
 女の方と目があって、その人物は和人の知る紗香だった。

 男の方は見るからに不審者よろしくのボサボサ頭によれた服。
 男の和人さえも近寄りたくない種類の男。

 瞬時にいつの日かの「後、つけられてるんです」が蘇って考えるよりも先に男へつかみかかった。

「お前!
 迷惑してるのが分からないのか!」

 マンション偽装の騒動後、連絡先も住んでいる号数も知らなかった紗香とは会えずじまいだった。
 ストーカーのことももちろん心配だったし、大変な時だからこそ支え合えないかっていう邪な考えがなかったわけじゃない。