マンションは閑散として人の気配がなかった。
 前までは誰にも会わずとも誰かがそこで生活している空気が確かにそこにあった。

 しかしそれは無くなり、シンと嫌な静けさが辺りを包んでいた。
 エントランスは『keep out』のテープが貼られ、その奥は崩れないようになのか、足場が組まれていた。

 しかしそこだけ支えればいいという単純な話で終わらないだろう。
 そこだけ鉄筋が少ないとは考えにくい。

 『keep out』のテープと何か作業している様子のエントランスを見つめてフッと嘲笑った。
 和人自身も希望通りになったことに気が付いたのだ。

 修繕作業をして欲しい。
 その希望は叶った。
 修繕どころか取り壊しにならなければいいが。