「ライバル会社が偽装ってなれば、自分の会社が忙しくなるじゃない?
 ウハウハよねぇ?」

 こんな時になんて不謹慎なんだ。
 そう言いたい口元が乾き切って言葉を紡げない。

「お兄ちゃんも若いのに、変な物件つかまされて大変だね!
 頑張りなさいよ!」

 背中をバシバシ叩かれて「はははっ」と乾いた笑いが落ちた。

 なんとかおばちゃんを振り切ってマンションの中へ入る。

 偽装を暴いて利益がある人物がいるかもしれない。
 その事実に悪寒がした。
 その恩恵をあの少年も享受するかもしれない。

 それを分かっていて……。
 まさか、な。

 どうであれ、あの少年がシロアリを放していたことは誰にも知られてはいけない。
 あのおばちゃんに知られたら……。
 おぞましい光景が思い浮かんで頭を強く振った。

 とんでもない考えを振り払うように和人は歩を進めた。