マンションへ荷物を取りに戻ったことを思い出し、中へ入ろうとして声をかけられた。
 どこにでもいそうな噂好きなおばちゃんだ。
 前にカフェで井戸端会議をしていた人達とは比べ物にならないくらいタチの悪い人。

「あの子のとこ、引っ越すのね。
 早い方がいいかもしれないわよねぇ」

 変な人に捕まったな……迷惑そうな表情を浮かべたところで汲み取ってはくれないだろう。
 急いでますので、そう切り上げようとした和人へおばちゃんはどこから知り得るのか恐ろしいことを口にした。

「今のご夫婦のところ。
 旦那さんも奥さんも建築関係にお勤めだっていうじゃない」

 と、いうことは偽装した当事者ということになるのか。
 驚きと信じられない気持ちが綯い交ぜになって吐き気がした。

 おばちゃんは心底驚いている和人に嬉々として話す。
 人の不幸は蜜の味だろうか。
 和人は冷ややかな気持ちで話を聞いた。

「仕事を忘れたいからって自分達の会社とは関係ないマンションに住んだらしいの。
 そのことで随分と夫婦で揉めたらしいわね」

 当事者ではない。
 それを知ってホッと胸を撫で下ろした。

 しかも夫婦の揉め事の原因がこのマンションに住んだことであるのなら、全てが万々歳だ。

 そう思ったのも束の間、おばちゃんは最後に爆弾を落とした。