おとなしかった少年はよほど嬉しいようでハキハキと自分のこれからを話してくれた。
「僕、おじいちゃんの家に住むことになったんだ。
お金が大変って言ってるけど、お父さんもお母さんも大変だから喧嘩する暇もないみたい」
嬉しそうにそう報告する少年の顔を見て眉尻を下げて頬を緩ませた。
喜んでいいことではないのに、不幸中の幸いと表現したくなった。
「そう。じゃ元気で」
「うん。お兄さんも」
荷物を両手に持った少年の両親らしき人がマンションから出てきて、和人へ会釈した。
そして彼は去って行った。
歩いて行った先で振り返って和人へ手を振った。
たまたま関わった少年のおかげで感慨深い気持ちになった。
たまには実家に帰ろうか。
いい機会だ。
次の長期連休は顔を出そう。
そんなことを思った。
家族の大切さが身に沁みて、そして次にマンションを買う時はもっと真剣に一生住むつもりでよく吟味して選ぼうと心に決めた。
何よりも次に入居するところでは管理組合の役員をすぐにでもやって、他人事にしないでおこう。
今回、このようなことに巻き込まれたのは自分の適当な態度が招いたことかもしれないと省みて改めるつもりでいた。