「穴を、大きくしたいんだな」
和人の問いかけに少年は黙っている。
「大きくしてどうするんだ。
お前もここに住んでいるんだろう?
穴が大きくなってマンションが倒れでもしたら……」
少年は唇を噛み締めてから思いを吐露した。
「そうなればいいんだ。
こんなマンション、無くなればいい」
思い詰めた声を聞いて和人は耳を傾けた。
雰囲気から和人を自分と同類だと思ったのかもしれない。
こういう少年はそういう嗅覚が研ぎ澄まされている。
現に、和人自身もそうだったように。
「このマンション嫌いなんだな」
彼の次の一言を促すように和人は語りかけた。
少年は堰を切ったように喋り出した。
「……だって、お父さんもお母さんも、ここに引っ越してきてから喧嘩してばかりなんだ。
僕も……ここの学校の友達、好きじゃない」
ここへ引っ越してきたことが喧嘩の原因かは分からない。
それでも彼にしてみたらここへ引っ越してきたせいで次々と嫌なことが起こったのだ。
どこにもぶつけられない怒りはマンションへ向かい、マンションを恨みたくなったのだろう。