「何、やってんだよ」
その幽霊みたいな子どもは前に叱責してしまった気弱な少年だと気が付いた。
今度は強い口調で怒ることはせず、平坦なトーンで話しかけ、彼の隣に彼と同じ様にしゃがみ込んだ。
それでも少年は体を固くして動きを止めた。
当たり前だろう。
突然、前に怒鳴ってきた奴が隣に座ったら心臓が縮み上がるに違いはない。
幽霊ではないと分かったのに、今度は彼の手元を確認して背筋が凍る思いがした。
彼の握るスコップの中には白い物体がサワサワと歩き回っていた。
「……これ、何」
しばらくの無言の間に観察したことによって答えは導き出されたが、彼も正解を口にした。
「……シロアリ」
スコップの柄の方へもよじ登ってこようとする害虫を平気な顔で少年は振り払っている。
「気持ち悪くないのか?」
「……うん。平気」
穴へシロアリを流し込もうとしている少年。
ひどく異常な行動が逆に和人を冷静にさせた。
マンションは鉄筋コンクリートだ。
外壁もガラスも木材は使われていない。
それでもシロアリが住み着いていい気はしない。
内装なんかには木材も使われているだろう。
しかし和人は少年を頭ごなしに叱る気力もなかったし、何より彼の必死さと前に叱った時の今にも泣き出しそうな顔がチラついた。
自分の幼少期と重なる彼の、行動の真意を知りたくなった。