平穏な日々が戻って欲しいという和人の思いとは裏腹に状況は一向に好転しなかった。
そればかりか、いつの日か黄色のテープは意味をなさなくなり知らぬ間に取り払われてしまった。
剥き出しの穴が和人の心を蝕んでいく気さえしていた。
何度、電話をしてみたところで全く動く気配を見せない管理組合。
自分が実費を払って修繕するのも馬鹿らしく、また、勝手なことをして住みづらくなるのもごめんだった。
もやもやする気持ちは晴れないまま、最近ではマンションへ帰る際に目に入る穴がストレスになりつつあった。
一瞬、そのストレスが見せた幻覚かと思った。
穴がある位置に子どもがしゃがみ込んで何かしている。
和人が帰るいつもの帰宅時間。
子どもが外にいるには遅過ぎる時間だ。
街灯に照らされて青白さが一層際立つ後ろ姿。
動いている腕が細く今にも折れてしまいそうに思えてゾッとした。
子どもは懸命にスコップで作業していた。