珍しく常人が活動する時間帯にマンションを出て近くのカフェへと立ち寄った。
 束の間の休日。
 今はマンションにばかりいると気が変になりそうだった。

 入ったカフェは落ち着く空間がお気に入りの場所だったが、今日はいけない。

 数人の主婦が集まって噂話をしていた。

 性別の違いなのか、年齢の違いなのか。
 そういう集まって噂話している女性が苦手だった。

 早々に退散しようかと思ったが、漏れ聞こえる話の内容が自分の住んでいる桜下マンションのことだと分かり、不躾だと思いつつ耳をそばだてた。

「最近、物騒よね。
 あのマンションに空いた穴。
 誰かが故意にやったんでしょう?」

 やっぱりそうなのか。
 自分の推測が当たっていたことに陶酔しかけて、誰かの発した言葉に体を固くした。

「この前も若い女の人が男につけられたって」

 それは紗香のことなのか。
 些か離れた場所に座っていることを無念に思いつつ、けれど本人は声を落としているつもりの大きな声は心配せずとも和人の耳にも内容を届けた。

「見るからに汚らしい人だっていうじゃない?
 つけていた男の方。
 心配で夜道歩けないわよ」

「本当ね〜あー怖い」と盛り上がる集団に「あなた達は大丈夫だと思いますよ」と毒を吐きたくなる心を押し留めた。