自分で聞いておいて大丈夫そうではない紗香に、つい本音がこぼれた。
 無意識に口が動いていた。

「俺の、部屋来る?」

「え?」

 目を丸くした彼女に慌てて訂正した。

「いや、一人じゃ不安かと思って。
 平気なら、いいんだ」

 馬鹿みたいな言い訳が出て、紗香は能面だった顔を崩して微笑んだ。
 血の気までも引いていたことに今、気が付いた。

「和人さん、お優しいですね」

「いや、そんなことは……」

 頭をかいて力なく乾いた笑いを吐く。
 紗香は部屋へ来ることの返事をすることなく頭を下げた。

「心配してくださって、ありがとうございます。
 おやすみない」

「……あぁ、おやすみ」

 紗香はいつもみたいに階段の方へと歩いて行った。

 紗香を見送るとふらりと体を移動させエレベーターのボタンを押した。
 一階にあったらしいエレベーターはすぐさま扉が開いた。
 体を預けたエレベーターで一人になるとため息が出て独りごちた。

「弱みに付け込んで、何やってんだか」

 エレベーター内は上へ上がる浮遊感とともに、ただ虚しく機械音がするばかりだった。