あれ以来、紗香に会っていない。
 しかし、いつ会うかは分からない。
 同じマンションだ。
 思いがけず会うこともあるだろう。

 穴が綺麗に塞がれるまで自分が見届けなければとの思いが芽生えていた。
 どこにそんな使命感を持ち合わせていたのか自分でも不思議でならない。

 数日経った今も黄色のテープは健在で、いつになったら修繕工事に取り掛かるのだろうと不信感を募らせた。

 休日出勤を終えて帰る帰り道。

 昼過ぎの帰宅は鋭い日差しに晒されて焼け焦げてしまいそうな暑さだった。
 真夏はまだまだ先のはずなのにサラリーマンにはつらい季節がすぐそこまで音を立ててやって来ている。

 ネクタイに指をかけ首を振りながら緩めると幾分楽になった。
 いつも通りコンビニに寄って昼間っからビールでも飲もうと物色して再び暑い日差しのもとへ舞い戻った。