「おい! 何やってんだ!」
顔を上げた人物と目が合って言葉を失う。
今にも泣き出しそうな瞳は大きく見開いて和人を目に映し揺れている。
つい、「大きな声を出してごめん」と謝ってしまいそうな口を噤んだ。
間違ったことは言っていない。
悪いのはこいつだ。
いつの日か見た小学生と同じくらいの年の頃なのに、明らかに違う。
顔は色白く、手足も細い。
生気を感じられないのだ。
小学生男子と言えば煩くてやんちゃで悪ガキ。
その枠組みから大きく逸脱しているであろう目の前の男の子に胸が痛くなった。
まるで昔の自分を見ているようで。
「ごめ、んなさい」
消え入る声が耳に届いて我に返る。
慌てて厳格な大人の顔を取り戻して言った。
「危ないからこんなところで遊んでちゃダメだ」
「……はい」
頭を下げた男の子は背負っていたランドセルの肩にかかるベルト部分を握りしめて走っていく。
今まさに穿っていた外壁のマンションの中に。
「自分のマンションに悪戯しちゃダメだろ」
呟いた言葉は空を彷徨った。
正論を振りかざしているはずなのに、心はどこか晴れなかった。