「では、直接やり取りするので管理組合の連絡先を教えてください」

 管理組合の名簿は入居時にもらっているはずだと指摘され、自分がマンションへの興味もここの住人になった実感も何もかもを持ち合わせていなかったことを改めて感じた。

 マイホームに夢を持っていたわけじゃない。
 ただ賃貸よりは持ち家でもあれば……程度の軽い気持ちだった。
 中古とは言え、軽い気持ちでマンションを買える財力があっただけ恵まれているとは思う。

 とりあえず、だ。
 紗香へいい顔をする為にも管理組合の理事会へ電話を入れた。

 外壁を確認してくれることで話がつき、電話を切った。

 息を吐いて窓の外を眺める。

 職場の休憩室から見える景色はビルの灰色とくすんだ空。
 高層階のここからは街路樹の緑さえ視界に入らない。

 いつも通りの風景をしばらく見つめてから仕事へと戻った。