「日曜の大会、見に来てよ! みんな、待ってるから……っ」
加奈の方を振り向くことはできなかった。
邪魔してごめんね、という加奈の声が聞こえた直後、美術室のドアの閉まる音とともに、加奈がパタパタパタと廊下を駆けていく音が聞こえた。
それが遠ざかって聞こえなくなったとき、私は思わずポツリと呟いた。
「……そんなこと言われても、困るよ」
いつの間にか足元に落としてしまっていた視線を上げると、月島くんと目が合ってしまった。
心配そうにしながらも優しい笑みを見せてくれる月島くんの姿に、無償に泣きたくなる。
「ごめんね、さっきの友達なんだ」
気が動転してたから、加奈にどんな態度で話していたかまでは覚えていない。
心がモヤモヤするあまり、無意識のうちに第三者から見ると加奈に対して冷たい空気を作っていた可能性だってある。
「そっか」
短くこたえる月島くんが何を思っているのか、私にはわからない。
目の前で加奈と私の話を聞いていたというのに、月島くんは何も聞いてこない。
きっと月島くんの優しさなのだろう。
わざわざ自分の評価を下げてしまうようなことを、聞かれていないのに話す必要なんてない。
本当ならここでこの話題は切り上げてしまえばいいのだと思った。
「……嫌な気持ちに、させちゃったよね?」
それなのに自分から話を引き伸ばしてしまったことに、言ってから気がついた。
「ううん、大丈夫だよ」
「……ならよかった」
「内村さんは?」
「え?」
「内村さんは、大丈夫?」
月島くんの瞳は優しい。きっと私のことを心配してくれているのだろう。
「……だって内村さん、泣きそうな顔をしてるから」
「そんなこと、ないよ……」
けれど、どうしてだか月島くんには全てを見透かされているような気がして、怖くなった。
「あ、私、今日は用事あるんだった。今更急いだところで怒られるかもしれないけれど、バイバイ」
とっさに私はスケッチブックと鉛筆をもとあった場所に戻すと、返事を聞く前にカバンを引っ付かんで、月島くんが私の名前を呼ぶ声すら無視して美術室を飛び出した。
優しい月島くんのことだ。
私のことを追いかけてきてもらっては困る。
これ以上、月島くんに情けない姿を見られたくなかった。
風を切り、空気が頬にぶつかる。
逃げるためとはいえ、こんな気持ちで走ったから、余計にあの日の記憶を思い起こされて苦しい。
徒歩圏内の自宅に、いつもの半分ほどの時間で到着すると、私は自分の部屋に閉じ籠り、うつ伏せでベッドの上に突っ伏した。
そしてどうしようもない罪悪感に、ひとり身体を震わせるのだった。
加奈の方を振り向くことはできなかった。
邪魔してごめんね、という加奈の声が聞こえた直後、美術室のドアの閉まる音とともに、加奈がパタパタパタと廊下を駆けていく音が聞こえた。
それが遠ざかって聞こえなくなったとき、私は思わずポツリと呟いた。
「……そんなこと言われても、困るよ」
いつの間にか足元に落としてしまっていた視線を上げると、月島くんと目が合ってしまった。
心配そうにしながらも優しい笑みを見せてくれる月島くんの姿に、無償に泣きたくなる。
「ごめんね、さっきの友達なんだ」
気が動転してたから、加奈にどんな態度で話していたかまでは覚えていない。
心がモヤモヤするあまり、無意識のうちに第三者から見ると加奈に対して冷たい空気を作っていた可能性だってある。
「そっか」
短くこたえる月島くんが何を思っているのか、私にはわからない。
目の前で加奈と私の話を聞いていたというのに、月島くんは何も聞いてこない。
きっと月島くんの優しさなのだろう。
わざわざ自分の評価を下げてしまうようなことを、聞かれていないのに話す必要なんてない。
本当ならここでこの話題は切り上げてしまえばいいのだと思った。
「……嫌な気持ちに、させちゃったよね?」
それなのに自分から話を引き伸ばしてしまったことに、言ってから気がついた。
「ううん、大丈夫だよ」
「……ならよかった」
「内村さんは?」
「え?」
「内村さんは、大丈夫?」
月島くんの瞳は優しい。きっと私のことを心配してくれているのだろう。
「……だって内村さん、泣きそうな顔をしてるから」
「そんなこと、ないよ……」
けれど、どうしてだか月島くんには全てを見透かされているような気がして、怖くなった。
「あ、私、今日は用事あるんだった。今更急いだところで怒られるかもしれないけれど、バイバイ」
とっさに私はスケッチブックと鉛筆をもとあった場所に戻すと、返事を聞く前にカバンを引っ付かんで、月島くんが私の名前を呼ぶ声すら無視して美術室を飛び出した。
優しい月島くんのことだ。
私のことを追いかけてきてもらっては困る。
これ以上、月島くんに情けない姿を見られたくなかった。
風を切り、空気が頬にぶつかる。
逃げるためとはいえ、こんな気持ちで走ったから、余計にあの日の記憶を思い起こされて苦しい。
徒歩圏内の自宅に、いつもの半分ほどの時間で到着すると、私は自分の部屋に閉じ籠り、うつ伏せでベッドの上に突っ伏した。
そしてどうしようもない罪悪感に、ひとり身体を震わせるのだった。