きみに駆ける

 *

 私が陸上部に復帰して、約半年が過ぎる。
 春の陸上競技大会の決勝で、高校二年生になった私はレーンの上で第三走者が戻ってくるのを待っていた。
 任されたのは、アンカー。
 ケガのあと、陸上から離れていた間のブランクを埋めるのは、想像以上に大変だった。
 けれど、以前以上に実力をつけた私は、今回アンカーとしてリレーのメンバーに起用された。

 今大会に向けて再編されたリレーのメンバー。私にバトンを繋ぐ第三走者は幸村先輩だ。
 私と一緒に走りたいと言ってくれた幸村先輩には、復帰後、ものすごくしごかれた。
 けれど、私がアンカーに起用してもらえるだけの実力をつけることができたのも、そんな幸村先輩の愛のある指導のお陰だと思っている。

「内村さん、最後は任せたからね」

 幸村先輩、そして陸上部のみんなの想いの詰まったバトンを受け取る。
 私が走り出した時点では、二位だ。
 このまま抜かされずにゴールすれば、少なくとも地区大会突破は堅い。
 けれど、だからって抜かされなければいいなんていう甘い考えは、私の中にはなかった。

 地を強く蹴って、前だけを見て進む。
 寂しさや悲しさに苦しむ日があっても、これまでも前を見て進んで来たんだ。
 月島くんは、また、どこかから私の走りを見てくれているのだろうか。

 ゴールテープを目前として、一位の走者の背中に手が届きそうなくらいに近づく。
 今日の調子は良好。
 ゴールテープの先に見えた観客席には、スケッチブックを片手に持った月島くんが見えたような気がした。

 一際強くなった喝采が耳に届く。
 競技場に流れたアナウンスで、ゴールテープを切ったのは私だったのだと知った。

「やった! すごいよ、歩美!」

 加奈が真っ先に私のところに走ってきて、両手を握る。
 今になって思う。私は、本当に良い友達に巡り会えたなって。

「ありがとう、加奈」
「内村さん」

 そのとき、背後から声をかけられて振り向くと、幸村先輩がこちらに来ていた。

「良い走りだったよ。やっぱりあなたはすごいわ」
「ありがとうございます……!」
「また次の関東大会でもよろしくね」
「はい……!」

 そのときだった。幸村先輩の後ろ──距離的にはかなり離れてはいるが、観客席のところにどういうわけか本当に月島くんの姿が見えたような気がした。