「だから、内村さんが同じ高校だったって知ったときはすごく嬉しかった。いつもグラウンドを走る姿を美術室から見てた。だけど、高校最初の大会を境にすっかり姿が見えなくなって、心配してたんだ」
「……あ」
「ウワサで内村さんが負傷したと聞いたときは俺も悲しかった。それからは、落ち込んだようにグラウンドを見る内村さんを時々見かけることはあったけど、いつも声をかけられなくて……、ごめんね」
「そんな……いいのに……」
その頃のことは、嫌というくらいに覚えている。
失望感や喪失感をはじめとした負の感情でいっぱいだったあの頃の私は、月島くんに話しかけてもらったところで、同情なんていらないと冷たく突き放していたかもしれない。
今なら違うとわかるけど、あの頃の私にとって、自分を気遣う言葉は全て同情に聞こえていたから。
だから、その気持ちだけで充分だ。
「そんなときに事故に遭った。よく晴れた日だった。目の前で車が玉突き事故を起こして、交差点で信号待ちをしていた俺の方に、そのうちの一台が突っ込んで来たんだ」
「……そう、だったんだ」
「一瞬だった。けど、もう俺は死ぬんだと思ったときに、やっぱり内村さんに何か声をかけたかったって強く後悔した。俺は、内村さんにたくさん勇気をもらったのに、何もできないまま死んでいくんだって」
私が月島くんの存在を認識する前から、彼にそんな風に思われていたなんて、知らなかった。
「そのまま一度意識が途絶えたあと、気づいたら俺は意識だけの状態で美術室にいた。誰にも俺の姿は見えなくて、最初は俺はあのまま死んだんだと思ってた。けど、違った」
「月島くんは、ずっと美術室にいたの?」
「……大体は。でも外にも出ることはできたよ。自分の身体を見に行くことだってできたし、今日だってそうでしょ?」
「ああ、そっか……」
「でもある程度時間が経ったら、いつもいつの間にか美術室に戻ってるんだ。だから、美術室から逃げられないのは間違ってないかも」
「……どうして美術室なんだろう」
「入学してから内村さんが走るのを辞めるまで、俺がいつもそこから内村さんが走る姿を見ていたからじゃないかな」
「……え?」
「俺がいつも座っている窓側の席で、いつも内村さんの走る姿を描いてたんだ。内村さんが走るのを辞めてからも、ずっとそこで内村さんが走る日が来るのを待ってたから。きっとそんな内村さんへの想いが、今の俺の姿を形作ってるんだと思う。現に内村さんにだけ俺の姿が見えたしね」
驚く私を、月島くんは少し照れ臭そうに見つめる。
「……あ」
「ウワサで内村さんが負傷したと聞いたときは俺も悲しかった。それからは、落ち込んだようにグラウンドを見る内村さんを時々見かけることはあったけど、いつも声をかけられなくて……、ごめんね」
「そんな……いいのに……」
その頃のことは、嫌というくらいに覚えている。
失望感や喪失感をはじめとした負の感情でいっぱいだったあの頃の私は、月島くんに話しかけてもらったところで、同情なんていらないと冷たく突き放していたかもしれない。
今なら違うとわかるけど、あの頃の私にとって、自分を気遣う言葉は全て同情に聞こえていたから。
だから、その気持ちだけで充分だ。
「そんなときに事故に遭った。よく晴れた日だった。目の前で車が玉突き事故を起こして、交差点で信号待ちをしていた俺の方に、そのうちの一台が突っ込んで来たんだ」
「……そう、だったんだ」
「一瞬だった。けど、もう俺は死ぬんだと思ったときに、やっぱり内村さんに何か声をかけたかったって強く後悔した。俺は、内村さんにたくさん勇気をもらったのに、何もできないまま死んでいくんだって」
私が月島くんの存在を認識する前から、彼にそんな風に思われていたなんて、知らなかった。
「そのまま一度意識が途絶えたあと、気づいたら俺は意識だけの状態で美術室にいた。誰にも俺の姿は見えなくて、最初は俺はあのまま死んだんだと思ってた。けど、違った」
「月島くんは、ずっと美術室にいたの?」
「……大体は。でも外にも出ることはできたよ。自分の身体を見に行くことだってできたし、今日だってそうでしょ?」
「ああ、そっか……」
「でもある程度時間が経ったら、いつもいつの間にか美術室に戻ってるんだ。だから、美術室から逃げられないのは間違ってないかも」
「……どうして美術室なんだろう」
「入学してから内村さんが走るのを辞めるまで、俺がいつもそこから内村さんが走る姿を見ていたからじゃないかな」
「……え?」
「俺がいつも座っている窓側の席で、いつも内村さんの走る姿を描いてたんだ。内村さんが走るのを辞めてからも、ずっとそこで内村さんが走る日が来るのを待ってたから。きっとそんな内村さんへの想いが、今の俺の姿を形作ってるんだと思う。現に内村さんにだけ俺の姿が見えたしね」
驚く私を、月島くんは少し照れ臭そうに見つめる。


