きみに駆ける

 でも、何のために……?
 確かに月島くんには、私と加奈のやり取りを見られた。
 けれどあれを見た上で私をここに連れてくるなんて、月島くんは、一体どういうつもりなのだろう。
 月島くんに対して今まで持っていた前向きな気持ちが、一瞬にして不信感に変わる。
 私の先を早足で歩く月島くんの肩に手を伸ばそうとしたとき、月島くんが振り返った。

「……騙すようなことして、ごめん」

 不信感は抱いても、まさかそんなわけがないと思っていたところはあった。
 それなのに、月島くんの口から聞かされたのは、私の不信感は間違っていないといわんばかりの内容だった。

「そんな、どうして……」

 つまり、月島くんが画材を買いに行くというのは嘘で、私は月島くんに騙されてたんだということだ。

「加奈に何か言われたの……?」
「この前美術室に来た人には何も言われてないよ」
「じゃあ、何で……っ!」
「俺は、内村さんにまた走ってほしかったからだよ」
「……っ」

 真っ直ぐにこちらを見る月島くんの言葉に、自分でも表情が歪むのを感じた。
 月島くんがあれ以上深く突っ込んで聞いてくることがなかったから、どこかで安心していた。月島くんは、絶対に私にもう一度走れって言って来ないって。
 だけどそれは私の勝手な思い込みで、全然そんなことなかったんだ。

「何でそんなこと言うの。何も知らないくせに……っ」

 まるで月島くんが敵にまわってしまったように思えて、ただ悲しかった。
 もうこんなところに、月島くんと居たくない。
 そう思って踵を返したとき、私は聞き覚えのある声に呼び止められた。