きみに駆ける

 月島くんと歩くこと約十分。私と月島くんは電車の駅に着いていた。

 閑静な住宅街の中にある小さな駅は、急行電車は停まらず各駅停車の電車しか停まらない。

「電車に乗っていくの?」
「うん。ごめんね、お金かかるよね」
「大丈夫大丈夫、少しくらいなら持ってるから! どこまで?」
「三六〇円区間だよ」
「了解。月島くんは?」
「あ、僕はICカード持ってるから。本当なら内村さんの切符代くらい出してあげたいんだけど」
「いいよいいよ、気にしないで」

 いくら月島くんの買い物に付き合うことにしたからって、さすがに切符代を出せだなんて言わない。
 私が切符を通して改札をくぐると、あとから月島くんも改札を通って入ってくる。
 そして、ひとつ通過の電車を見送ったあと、普通電車に乗り込んだ。

 電車の中ではほとんど会話はなかったけれど、隣に月島くんがいるというだけで、やっぱり私のトゲトゲした心が癒されていくように感じる。
 四駅先で急行電車に乗り換える。
 わざわざこれだけ時間をかけて行く画材屋さんということは、それなりに大きいところなのだろうか。

「内村さん、降りるよ」

 そう声がかかったとき、偶然二人並びで座席に座れたということもあり、少しウトウトしてしまっていた。

「……え? あ、ご、ごめんね……っ!」

 私としたことが、月島くんと一緒にいるのにウトウトしてしまうとか、失態もいいところだ。

「いいよいいよ、ちょうど暖かくて気持ちよかったもんね」

 月島くんは眉を下げてクククと笑う。
 けれど、それだけ月島くんには人を安心させてしまうオーラが出ているということだ。

 電車のドアが閉まる前に慌ててホームに飛び出す。
 改札に切符を通して出口を出た先に見えた景色を見て、胸がツンと染みるような感触があった。

「ここ……」

 駅のすぐそばに見える入り口は、私がよく知っている陸上競技場だ。
 県内一の大きさを誇るここは、中学や高校の陸上部の大会の会場としてもよく使われている。

「何で……」

 月島くんは、今回ばかりはそんな私の戸惑いに気づく素振りもなく、私の横を通って陸上競技場の方へ歩いていく。

「あの、月島くん……っ」

 私の記憶では、この辺りには月島くんの買おうとしている画材を売っているところなんてないはずだ。
 画材屋さんには詳しくないけど、そもそもこの駅の周辺には今見えている陸上競技場の他には、取り立てて何もないからだ。
 あるとすれば、駅や陸上競技場の近くにあるコンビニとファーストフード店くらい。
 信じたくはないけれど、月島くんの画材を買うという話はただの口実で、私は月島くんに意図的にここに連れて来られたということなのだろうか。