高校受験になんて、正直興味がなかった。俺は勉強なんて好きじゃないし、大学に行きたいとも考えていない。かといって、中卒で働こうとも思ってはいなかった。
 ケンジと一緒の高校なら、行ってもいいんだけどな。俺がそう言うと、だったら決まりだなとケンジは言った。そしてその日の放課後から、秘密の勉強会が始まったんだ。
 当初は本当に秘密だった。俺とケンジで部活後にケンジの家で勉強をするんだ。受験の半年前だったけれど、ケンジはまだまだ余裕だと言っていたよ。
 俺が目指した高校は、その学区では一番頭のいい学校だった。当然だが、俺がそこを目指したわけじゃない。ケンジがそこに行くと決めていたから、そうしたってだけだ。
 ケンジの勉強法は、単純だった。教科書を読んで、考える。それだけなんだ。覚えるってことを意識した勉強はしない。どうしてこうなるのか? どうしたらこうなるのか? それを考えるんだ。分からなくて苦しい気持ちになることもあったけれど、なにかを考えるってことは、とても楽しかった。
 俺はすぐに、結果を出した。テストで始めて百点を取ったんだ。そんな俺の異変に、カナエが一番驚いていたな。カナエはケンジとは違う本当の天才だったからな。勉強が苦手な俺を不憫に思ったのか、何度か勉強を教えてくれたことがあったんだ。けれど結果は出なかった。
 カナエは自分が頭がいいってことを理解していない。自分ができることを、他人ができないことに不思議がるんだ。ここがこうだからこうなるのよ。分かるでしょ? よく言うセリフだった。
 ケンジは違う。あいつはただ単純に頭がいいっていうわけではなく、どうすれば答えに辿り着くかを考えていて、その説明が上手だった。自分に理解できることを、当然のように他人が理解できているとは考えていなかった。もちろん、その逆もある。他人が理解できていても、ケンジには理解できないことがいくらでもある。ケンジはそんなとき、少しでも理解をしようと考える。勉強だけじゃなく、その他のことに対しても同様に。
 俺が志望校を口にすると、みんなが驚いた。けれど、その理由を聞くと納得する。だったら私もそうすると、ケイコが言い、私の志望校はもともとそこしかないのよとカナエが言った。ヨシオは、僕も勉強をすれば受かるかな? と、ケンジに向かって言っていたよ。ケンジは即答した。タケシより頭がいいんだから、問題ないってね。
 こうして俺たちは、五人揃ってこの高校に入学したってわけだ。なかなかにいい高校だよな。元々は女子校だったらしく、女子率が高いのが最大の弱点だよ。俺はあまり、甲高い声が好きじゃないんだ。ちょっと男っぽいハスキーな声が好みなんだ。ユウキのようにね。