しっとりと雨に濡れたその男性は小さく会釈をすると数瞬、店内を見回し、昨日、珠希さんが座った入り口に一番近い窓際の席を選んだ。


「エスプレッソを一つ、お願いします」


 水をお持ちすると、男性は手に持っていたメニュー表から顔を上げずに言う。


 白地にヤシの木とサーフボードが描かれたTシャツの袖口から伸びる腕は日に焼けて黒く、何かスポーツをしているのだろう、同性の渉も憧れるほど逞しく引き締まっていた。


「かしこまりました。少々お待ちください。タオルも持ってきますね」


「あ、すみません。傘持ってなくて」


「いえ。しばらく空調も切りましょうか? 濡れた体では冷えますし」


 そのとき初めて顔を上げた男性は、申し訳なさそうに眉尻を下げて「じゃあ、はい……お願いしてもいいですか」と言う。


 やはり顔も日に焼けて黒い。


 意志が強そうな眉と大きな二重の目、スッと通った鼻筋は精悍な顔立ちそのものだ。そこに髪が伸びて地色の黒が混ざったメッシュ状の金髪がよく似合う。


 あと二ヵ月弱もすれば恋し浜に海水浴に訪れる若い男の子たちの格好を一足先にやっている、という感じだ。