それはさておき、渉は一気に賑やかになった店内で一つ息をつくと、野乃リクエストのオレンジジュースと、元樹君リクエストのサイダーを持って二人の元へ運んだ。


 自分一人では珠希さんの話をどう扱ったらいいか途方に暮れかけていたところだったので、今日も賑やかな二人が帰ってきてくれて、なんというか、心の底からほっとしたのだ。


「……渉さん、なんか元気がないみたいですけど、どうかしました?」


 すると、ふいに野乃に尋ねられて、渉の肝は瞬間的に冷えた。


 本当にこの子は人の心の動きに敏感だ。いつも通りに振る舞っていたつもりだったのだけれど、どこかにいつも通りではない部分があったのかもしれない。


 いい歳をしたおじさんなのにまた気遣われてしまった……と自分が少々情けなくなりつつ、渉はゆるゆると首を振る。


「ううん、なんでもないよ」


「そうですか……。でも、何かあったら言ってください。私で力になれることがあるかもしれないし。ここで下宿させてもらってるんだから、それくらいさせてくださいね」


「うん、ありがとう」


 野乃の言葉に小さく罪悪感を覚えながら、しかし渉はそう言って笑うに留めた。


 珠希さんの話は、他人の渉が聞いてもとても重いものだった。