「やっぱり高いもののほうが美味しく淹れられるんですか?」


 聞かれて渉は、自身のエスプレッソマシンをちらりと振り返りつつ、口を開く。


「……そうですね、エスプレッソは圧をかけてお湯をコーヒーの粉の中に瞬間的に通して抽出するものですので、家庭用のもので比較的安価なものですと、少し圧の弱いマシンになってしまう可能性があります。粉はエスプレッソ用の細く挽いたものがありますので、グラインダーといって豆を挽くマシンは必要ないかと思いますけど……本格的なエスプレッソをお楽しみになりたいなら、高くても性能のいいものを選ぶといいかと思います」


「へえ、そうなんですね。店長さんの前で失礼ですけど、二万も三万もするマシンを買って一体何を目指してるんだとか思ってたんですよ。そっか、だからか。これで納得です」


「お役に立てましたでしょうか?」


「はい。とっても」


 それから珠希さんは、やっぱりプロに淹れてもらうと美味しいですね、と言って綺麗にエスプレッソを飲み干し、ごちそうさまでしたと代金を置いて店をあとにしていった。


 渉は最後まで彼女になんと声をかけたらいいのかわからないままだったが、そんな渉の心中を察した珠希さんに「誰かに聞いてほしかっただけですから」と笑われてしまい、逆に渉のほうが気遣われてしまうという、なんとも間抜けな結果になってしまった。