「そういうところも大好きだったんですけど、告白の前に訃報が届いて……。あれから二年です。海を見ると未だに、彼の命を奪ったくせに穏やかに波打ってんじゃねーって思いますけど、それでも彼が好きだったものだから、どうしても嫌いになりきれないんですよ。だから困ってるんです」


 と、言う。


「……そう、でしたか。それは……なんというか……」


「はは。残念ですよね、私がどれだけ好きだったかも知らずに死んじゃうなんて。もし天国かどこかでこれを聞いてたら、ちくしょーって悔しがってくれるといいんですけど」


 言葉に詰まる渉に、しかし珠希さんは気丈にも笑ってそんなことを言う。


 相手の生死で失恋の重さが量られるというわけでは、もちろんないけれど……思いがけず重いものを抱えてここを訪れた珠希さんに、渉は咄嗟には何も言えなくなってしまった。


「店長さんには負けるけど、彼、エスプレッソを淹れるのが上手かったんですよ」


 すると、渉を案じてか珠希さんが少しおどけたような口調で言った。


「……おそれいります」と返すと、珠希さんはふっと笑って「けっこう値の張るエスプレッソマシンとかも買っちゃったりして」と、またおどけたような口調で言い、肩を竦める。