「でも、担任は違いました。もう担任じゃなくなったのに、暇を見つけては勝手に家庭訪問に来て、最近どうだ? 何か困っていることはないか? ってしつこく聞いてきて。そのたびに追い返してたんですけど、ある日、職場で母が倒れちゃって……。過労でした。私がいつまでもフラフラしてるせいで、母は昼も夜も働きづめで。しばらく養生すれば大丈夫だっていうことだったですけど、そのとき私、世界にたった一人放り出されたような気分になって、気づくとその担任を母の搬送先の病院に呼んでたんです」
「それは……お母さまも珠希さんも大変な思いをなさいましたね」
どう相づちを打とうかと考えたが無難すぎる台詞しか浮かばず、渉は申し訳ない思いに駆られつつも、おずおずと口を開く。
すると珠希さんは、自嘲気味にふっと笑みをこぼした。当時のことに後悔してもしきれないという、静かな笑みだった。
「全部私のせいなんで。大変だったのは母ですよ」
「でも、それから珠希さんは、更生……っていう言い方が合っているのか、ちょっと自信はないんですけど、きちんと手に職をつけて今は美容師のお仕事をなさっているじゃないですか。やっぱり担任の先生から勧められたことが大きかったんですか?」
「それは……お母さまも珠希さんも大変な思いをなさいましたね」
どう相づちを打とうかと考えたが無難すぎる台詞しか浮かばず、渉は申し訳ない思いに駆られつつも、おずおずと口を開く。
すると珠希さんは、自嘲気味にふっと笑みをこぼした。当時のことに後悔してもしきれないという、静かな笑みだった。
「全部私のせいなんで。大変だったのは母ですよ」
「でも、それから珠希さんは、更生……っていう言い方が合っているのか、ちょっと自信はないんですけど、きちんと手に職をつけて今は美容師のお仕事をなさっているじゃないですか。やっぱり担任の先生から勧められたことが大きかったんですか?」