ふっと笑い、けれど珠希さんは「でもうち、けっこうなド貧乏だったんで」と言う。


「専門学校に通えるだけのお金なんて最初からなかったんです。だから突っぱねてやったんですよ。家の事情も知らないで勝手なこと言うな、って。……あ、うち、母子家庭なんですけどね。確か三者面談のときだったと思います。母がどうしても仕事を抜けられないからって私一人で面談を受けてたんですけど、もうたまらなくなっちゃって」


 ちびり、エスプレッソを含んで、珠希さんは続ける。


「そういう家庭環境もあって、世の中全部が敵に見えてました、あの頃は。なんとかお情けで卒業させてもらってからもしばらくは、就職するでもなくバイトをするでもなく、フラフラする時期が続きました。……でも、本当にどうしたらいいのかわからなかったんですよ。この気持ちをどう処理したらいいのかも、ぶつける先も、行き場も」


「はい」