そう言ってふとグラスに目を落とした野乃の横顔に、窓から差し込む光が影を作る。


 五月の連休最終日。


 午前中の気持ちのいい陽光と吹く風に揺れて、外の木の葉の影が窓辺のこの席までかかり、ゆらゆらと不規則にまだら模様を描いていた。


 野乃の横顔に落ちたその影を見ながら、渉はふと、この子に本当のコーヒーを飲ませてあげたいと思った。


 彼女はどっちにしろ早かったと言ったけれど、本当に美味しいコーヒーは、やっぱり違う。渉は、そんなコーヒーを淹れたいと常に思っているのだ。


 でも、まだここに来て十数分だ。いくら親戚で面識があるとはいえ、干支が一回りするくらい会っていなかった。


 受け答えはずいぶんしっかりしてきたが、下宿ということは、これから二人で過ごすことになる。きっと警戒心だってあるだろうし、転校先での不安もあるだろう。


 なにより、親元を離れた心細さはどうしたって渉には埋めてやれない。