でも、それは自分一人の力ではけして淹れられないものだということも、渉はわかっている。


 野乃は今はまだ、答えを探している途中なのだろう。


 ここでの生活や元樹君ら、ここに住む人たちと関わっていくうちに少しずつ答えが出せていけるといいんだけど、と思いながら、渉はやっと味噌汁に口をつけた野乃と同じように、自身も味噌汁をすすった。


 野乃が溶いてくれた味噌加減は、自分で加減するより断然美味しかった。


 渉が切った少し歪な豆腐を一つ口に運んだ野乃の「美味しい」のひと言に、渉はまた、眼鏡の奥の目をふっと細めて笑う。


「それはよかった。食べてる最中にあれだけど、明日の晩ご飯は何にしよう?」


「そうですね……渉さんは何が食べたいですか?」


「え、俺? うーん、何がいいだろう……」


 それからの晩ご飯の時間は、ごちそうさまでしたと揃って手を合わせるまで、あれも美味しそう、これも美味しそうと、明日の晩ご飯の話で持ちきりだった。