「それはやっぱり、野乃ちゃん次第なんじゃないかな。野乃ちゃんが今日も鰹が美味しいと思って食べてくれてるように、心の在り方っていうか、気持ちの部分が関係してくるんだと思うよ。俺はただコーヒーを淹れてるだけだから。そりゃ、いつも美味しいコーヒーを淹れたいなとは心がけてるけど、俺だけの力じゃどうにもならないこともあるし」


「そうですよね……。あ、でも、さっき飲んだアイスコーヒー、とっても美味しかったです。まだよくわからないけど、たぶん、そういうことなんですよね」


「そうだね。そうかもしれないよね」


 ふっとわずかに目元を緩める野乃に、渉も眼鏡の奥の目を細める。


 野乃が自分が淹れたコーヒーを美味しいと思って飲んでくれるなら、いくらでも淹れたいと思うけれど、こればっかりは、きっと〝どうにもならないこと〟なのだろうとも思う。


「リクエストしてくれたら、いつでも淹れるよ」


 言うと野乃が嬉しそうに「はい」と少しだけ声を弾ませた。


 そのまま味噌汁の椀に口をつけようとして、ふと何かを思い出したように顔を上げる。