ふと顔を上げると、さっきまで広く思えた店内はいつの間にか普段通りの広さに感じられるようになっていた。


 きっとこれも野乃のおかげだ。


 渉は水を張った鍋を火にかけつつ、今日はどんな味噌汁にしようかなと、そっと隣の野乃の横顔を窺った。



 それから一時間ほどして、ご飯が炊けると同時に遅めの晩ご飯となった。嫌そうな顔をしつつも、野乃は鰹の佃煮風をご飯に乗せて美味しそうに頬張る。


 味噌汁は、野乃がシンプルなものが好きだと言うので、わかめと豆腐、刻んだネギのものにした。昨日と同じように適当なテーブルについて黙々と箸を動かしていく。


「……私も渉さんに淹れてもらったら美味しいコーヒーが飲めるのかな」


 するとふと、野乃が呟いた。「ん?」と野乃を見ると、


「いえ。文香さんが晴れやかな顔をしてたって言うから、私も見て見たかったなって思って。きっと、すごく美味しかったんだろうなって、羨ましくなっちゃったんです」


 と、彼女は言う。


 数瞬考えて、渉は口を開く。