けれど、その疑問にあっさりと答えを返したのは上尾さんだった。


「普通のコーヒーは苦くてあんまり美味しく飲めないって言うから、俺が『じゃあ、カプチーノは?』って勧めたことがあっただろ? それから文香は店に入ると決まってカプチーノを頼むようになったんだよ。ミルクがちょうどいい、って言って」


「え、そうだったっけ……?」


「うん」


 驚いて目を瞠る文香さんに、上尾さんが優しく笑いかける。


 上尾さんの声はどこまでも穏やかで、よく晴れた穏やかな春の日の木漏れ日のような、そんな温かさがあった。


 みるみる顔を赤くさせながら、もごもごと口元を動かす文香さんは、今、何を思っているのだろう。


 他人の自分がこれ以上口を出せることではないけれど、と前置きしつつも、渉は、どうかこれから二人が上手くいきますようにと願ってやまなかった。