しかし、声をかけようか迷っている間に元樹君は小さく会釈をすると店の外へ消えていき、野乃も階段を上っていってしまった。


 仕方がない、ここはいったん仕切り直そうと気を取り直した渉は、出来上がったカプチーノを銀盆に乗せ、二人の元へ運んだ。



 それから二人は、長いこと話し込んでいたようだった。


 店内に二人を残して、カウンターを挟んで反対側のバックスペースに引っ込んだ渉は、ときおりドアを通り抜けて聞こえてくる二人の笑い声に柔らかに口元を綻ばせつつ、コーヒー豆やフィルターなどの在庫管理をする。


 月末の定休日はまだ先だが、今からやっておいて損はない。


 やがて適当なところで切り上げ店内に戻ると、待っていたという様子で二人がほぼ同時に腰を上げた。


 文香さんの目元には泣いたあとがあったけれど、上尾さんと微笑み合うその顔は憑き物が取れたように心から晴れやかで、渉の心もスーッと晴れていく。


 どうやら、美味しく失恋を淹れられたようだ。


 ……もっとも、野乃の機転と彼女を心配して追いかけてきた上尾さんのおかげが大きいけれど。