下宿が決まってから――叔父夫婦が勝手に転校手続きを済ませてしまったので、引き受けざるを得なくなったともいう――からは、野乃も自ら荷物をまとめたり、必要なものがあれば買いに出かけていたそうだけれど、その佇まいにはやはりどこか陰がある。


 初冬に張る薄氷のように、触れれば簡単に割れてしまいそうで、渉は少し怖い。


「はい、カルピスソーダのミント添え。今日みたいに暑い日には、こういう涼やかなものを目で見て涼むのも風流だよね。炭酸がまだ効いてるうちにどうぞ」


 バッグを適当な場所に置くと、野乃に好きな席に座るように促し、渉はさっそくカウンターで飲み物を作った。


 彼女が待つ窓際のテーブル席に運ぶと、野乃はそう言って笑った渉を見て、それからミントが添えられたグラスを見て、ほんの少し表情を和らげる。


 ちなみにカルピスソーダは渉の調合だ。あまり炭酸がきつくならないように、微炭酸に調整したつもりだ。ミントも、もともとここに生えていたものを使わせてもらっている。