「……」


「……」


「……」


 それからしばし、誰も口を開けなかった。


 文香さんの胸中は思っていたよりずっと複雑で、すぐには誰も何も言えなかったのだ。


 文香さんがカプチーノに口をつけ、それをソーサーに置く、カチャリ、という静かな音だけが、店内に小さく響く。


 文香さんは本気で彼が好きなのだ。だから、こんなにも胸を痛めている。


 ――と。


「ねえ、この人……視線が少し、文香さんのほうを向いてるような気がしない?」


 野乃が向かいの席の元樹君にそう尋ねた。


「え?」


「ずっと飾ってたみたいだから日に焼けてるし、さっき水にも濡れたから少しわかりずらいかもしれないけど、この後ろの左端の人、やっぱり文香さんを見てるように見える」


 写真を覗き込む元樹君に、この人、と指で指し示しながら、野乃は確信を深めたような声で言う。


 顔を見合わせた渉と文香さんも元樹君の横から写真を覗き込む。