見るとその写真には、数年前の文香さんと、ほかに六人が写っていた。


 前に三人、後ろに四人。前の三人のうちの真ん中の男性が大玉スイカほどの鉢の中に数匹の金魚を泳がせた金魚鉢を持っていて、その右隣が文香さんだった。


 ということは、この金魚鉢の彼が文香さんが今でも諦められない恋の相手ということになる。


 背景は大学内にあるサークル棟の一室だろうか。けっこう雑然としているけれど、みんな楽しそうだ。


「野乃ちゃんには、大泣きしてるところと、海に写真を投げるところと、二度もみっともないところを見せちゃったけど、この写真があるから頑張れてるんですよね。心の支えっていうんでしょうか。就職したての頃とか、本当によくこの写真に助けてもらって」


 切なさと懐かしさを同居させたような顔で、文香さんは続ける。


「でも、これがあるから、心から祝福できない部分が私の中に確かにあるんです。店長さんに話したことをさっき野乃ちゃんにも話していたんですけど、金魚が三年生きるかどうかにこだわっていないで告白してたらどうなっていたんだろうなって、そんなこともやっぱり考えてしまうんです。店長さんには、深手を負う前に失恋できてよかったなんて言いましたけど、今でも不毛な幻想を抱くんですよ。いっそ奪ってしまえたら――なんて、彼女とも友達なのに、そんなことを平気で思えてしまう自分が怖くて、嫌いです」