昔、渉もぐしゃぐしゃに丸めた手紙をごみ箱に捨てたことがあったのだが、しばらくすると野乃がしわを伸ばしたそれを持ってきて『たいせつ、でしょ?』と叱られたことがあった。


 きっと、ごみ箱に投げ捨てる前にずいぶん躊躇していたところを偶然にも見られていたのだろうと思う。


 それにしても、野乃のそういう勘は本当に鋭い。


「でも結局、いざ流されていく写真を見たら、きっと私も海に入って拾ってたんですよ」


 そう言った文香さんは、ハンカチに丁寧に包まれた写真を取り出し、


「――これなんですけどね。みんな若いし、いい顔してるでしょう。サークルをはじめるときに、記念に初代メンバーで撮ったんです。……これだけなんですよ、私が彼の隣に写っている写真って。ほかにも写真はいっぱいあるんですけど、これ以外は全部、私はサークルの女の子と写っていたり、彼以外の男子メンバーと写っていたりしてて」


 と、渉たちに写真を向けた。


「当時は好きでもなんでもなかったんですけど、不思議なことってあるものですよね。まともなツーショットすらないんです。まるでその当時から私の恋は叶わないって結果が出ていたみたいに思えません? なのに諦められないなんて、笑っちゃいます」