「文香さん、本当は、全然納得できていないんじゃないですか?」


「え?」


「まだお時間が許すようでしたら、もう一杯、飲んでいかれませんか? コーヒーが本当に美味しく感じられるようになるまで、僕たちにお手伝いさせてください」


 渉は野乃と元樹君、それからもう一度文香さんを見て、眼鏡の奥の目をふっと細める。


 ただ黙ってお客様の話を聞いているだけでは、淹れたコーヒーが美味しく感じられないこともあるのだ。


 一人でダメなら、二人、三人で話を聞こうと思う。


 たとえ文香さんがどんなに複雑な胸中をしていても、ここにいる自分たちは何一つ咎めない。彼女が本当は何を望み、どうしたいと思っているのか、じっくり話を聞いてみよう。


 ここは恋し浜珈琲店だ。ゆっくりとコーヒーを飲みながら。



 再び四人で店に戻ると、渉はさっそく文香さんのリクエスト通り、三度カプチーノを淹れた。


 店内に濃厚なコーヒーの香りが立ち、そのいい匂いに鼻孔がくすぐられる。