「はい。今日からお世話になります。最後に会ったのは、十二年くらい前のお盆です」


 そっか、もう干支が一回りしちゃってたんだね、なんて言いながら、渉は野乃の荷物を預かり、バッグを自分の肩に掛け直す。


 すみません、と小さく呟いた野乃に、キャリーケースも預かるよと言うと、彼女は「これは引いて歩くだけなので」と遠慮した。


「そう。じゃあ、とりあえず店の中に入ろうか。言ってくれたら駅まで迎えに行ったんだけど、歩くとけっこう遠かったでしょう。今、冷たい飲み物を出してあげる」


「はい」


 眼鏡の奥で目をにっこり笑わせると、いくぶん緊張も取れたのか、渉に続いて野乃が店内に入ってくる。


 今日は五月晴れだ。朝から夏のような太陽が恋し浜を照らしている。


 両手にキャリーケースを引く野乃に店のドアを開けておいてやりながら、言葉少ななのは、ついこの間まで不登校だったからだろうか、と渉は考えた。


 十二年前と今を比べても仕方がないけれど、幼稚園児だった頃の野乃はよく笑う子だったのに。